Part 2
## 挿絵












## 第一章 呪文
「いらっしゃいませ。お二人様でしょうか?」
「こんにちは。ええ、禁煙席で。それからホットコーヒーを二つお願いします」
「かしこまりました。こちらのお部屋はすべて禁煙席ですので、どうぞごゆっくり」
手慣れたやり取りのあと、少女は少年たちを室内へ案内した。
「……ここ、カフェだよな?」
気軽に口を開いた男の後ろで、もう一人の男がぶつぶつと文句をこぼす。
ありえない。絶対にありえない。
ここは今どき流行りのおしゃれなカフェとはほど遠く、室内は殺風景な古びた本に囲まれていた。放課後の資料室だ。鼻歌まじりにコーヒーを注いでいる少女は、カフェの店主でも淹れ手の専門家でもない。着ているのは学校の制服だ。客のような顔をしている男も、その背後で今の状況が理解できないといった表情を浮かべている男も、どちらも制服姿の生徒だった。二人は簡易な鉄の椅子に腰を下ろす。湯気を立て、香り高い琥珀色の液体を満たしたカップが、事務用の机の上に置かれた。
「お待たせしました」
今日のコーヒーは自信作なのだろうか。彼女は満面の笑みで二人の男を見つめた。
「ずいぶん待ったぞ!」
「あ、ああ、ありがとう!」
「うんうん、いい香りだ。今日のはニカフィスだろ。しかもゴールドブレンドのレッドラベル!」
「春原くん、残念でした! 今日のコーヒーはダテーラ農園産のブラジルです。豆は二日かけて焙煎して……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)
## 第二章 Overture
ちりん、ちりん……
ベルが鳴ると同時に、それまで穏やかだった寝息も止まった。
「起立! 礼!」
がばっと立ち上がり……
「着席!」
「うあああ」
まだ眠りから覚めきらない朋也があたりを見回すと、もう先生の姿はなく、みんな思い思いに動き出していた。授業中に寝ていて先生に叱られない。そんな扱いを受けるようになって、どれくらい経つのだろう。
「昼休みか……」
「よう! 岡崎、おはよう!」
「おはようって、もう昼だろ」
後ろから聞こえた声は聞き慣れたものだったので、朋也はいつものように返事をした。
「おまえ、今起きたばかりだろ。だったら、おはようで正しいだろ」
振り返れば、予想どおりの顔が、予想どおりの笑みを向けていた。
手にした鞄を机の脇に置く。どうやらこいつは今来たばかりらしい。
「まあ、いいけどな」
「ところで、今日の昼はどうする?」
「どうするって?」
「昼飯、どこで食うんだよ。それを聞いてるんだ。最近おまえ、昼休みになるとよく蒸発してるだろ」
最近の朋也は、よく渚と一緒に昼を食べている。春原は朋也が演劇部の再建に力を入れていることは知っているが、渚と昼を共にしていることまでは知らないらしい。朋也としても、わざと隠していたわけではない……正直に言えば、知られたらまた自己陶酔を始めそうなので、あえて明かさないでおくことにした。
「……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)
## 第三章 Who is
終礼が終わり、ようやく放課後を迎えた。
「ああ、委員長。今日は……」
「ごめん、ちょっと急ぎの用があるの。あとで戻ってくるから!」
杏はあわただしく、しかも教室を一番に飛び出し、急いで屋上へ向かおうとした……そうしようとした、その瞬間。
(ちょっと待ちなさい。こんなに急いで、今にも待ちきれないみたいに屋上へ駆け上がったら、「授業が終わるのを待ちかねてたのね!」って思われるじゃない。相手が誰かはわからないけど、それってなんか癪に障る……)
自分の矜持に気づいた杏は、屋上へ急ぐ足を止めた。
「うーん……」
屋上へ続く階段の前で、杏は両腕を組んで考え込む。
(放課後「何時に会う」とも、あの人は書いてなかった。とにかくいつもどおり、先に朋也の様子を……違う、先に椋の様子を見に行こう。こんな唐突に屋上で会えなんて呼び出されて、仕方なく行くんだから。せめてやるべきことを済ませてからでないと、かえって不自然よ)
振り返り、屋上での待ち合わせはいったん後回しにする。念のため、手紙の主に自分の異常を悟られないよう、冷静な言動を取り戻すように努めながら、三年D組へと向かった。
しかし、行きたいと思っていたその教室に近づくほど、杏の歩幅は小さくなり、足取りも遅くなっていく。校舎は狭いので、いつの間にか目的地に着いてしまっていた。
三年D組の入口の前で、杏は深……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)
## 第四章 Girls meeting
「わああ、ピチニック先生!」
春原は再び、黒いカーテンに覆われた資料室を訪れた。前回と違い、燭台のろうそくにはすでに火が灯っている。エニークに扮した宮沢は、肘を机に突き、左右に開いて外套をまとい、春原を見ていた。
「座りなさい」
独特で甲高い声に促され、春原は角机の前まで歩み、鉄の椅子に腰を下ろした。
「先生、実は……」
「言われなくてもわかっている」
春原はあの手紙の結果を報告しようとしたが、目の前のエニークは手を上げ、その言葉を制した。
「結果はすでに把握している。失敗には終わったが、わたしの呪文は完璧だった。そうだろう」
「は、はい。先生のおっしゃるとおりです。すべて、おっしゃったとおりになりました!」
「当然だ」
「うん、ずっと憧れてたんだ!」
実のところ、朋也は事前に宮沢へ結果を報告済みだった。その点をまったく考慮していない春原は、この上なく敬う眼差しでエニークを見つめた。
「それに今回、もう一度呪文をかけてほしいと望んでいることも、有紀寧から聞いている」
「はい、おっしゃるとおりです」
「ふむ、それならこうするしかない。二度を超える依頼からは、正式に料金をいただく……」
エニークはそっとため息をつき、それから分厚く年季の入った呪文書を手に取った。
「あの、参考までに伺ってもいいですか。正式な料金は、だいたいいくらになるんでしょう?」
「施す呪文の等級によって、価格も変わる。前回の『絆の……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)
## 第五章 SUNOHARA
朋也は七時前に目を覚ました。当然のことだ。今の時間なら、十分授業に間に合う。いろいろなことがあって疲れていたのか、昨日は珍しく早く眠ってしまった。それが、今こうして目覚めている理由だった。
いつもならもう一眠りしようとするところだが……今日に限って、どうしても眠れない。
(渚は今日、学校に来るだろうか)
律儀に校門で朋也を待っていてくれる彼女。
(大病上がりで、調子はよくないはずなのに、それでも待ち続けて……)
そんな状態なら学校に来られるわけがない。そう頭ではわかっていても、朋也の胸には不安が湧き上がった。
かち、かち。時計の秒針が進む音が、耳元で響いている……
「ああもう、くそ!」
朋也は布団を蹴り飛ばし、荒々しくベッドから飛び起きた。それから深くため息をつき、学校へ急ぐ支度を始めた。
(俺ってやつは、ほんと人の心配ばかりしやがるな!?)
家にいても仕方がない。支度を終えると朋也は学校へ向かい、時間を潰しながら校門へと近づいていった。
学校に着いてみると、来たのがあまりに早すぎたことに気づく。構内にいるのは、部活に参加している生徒がいくつかいるだけだった。しかしすぐに登校する生徒の数は急速に増え、朝の終礼が始まる三十分ほど前には、校門前が賑やかになっていた。
(渚は今日も家で……休んでいるのか)
予鈴が鳴るまでには、まだ時間がある。それでも、いつもなら渚はもう校門の前で待っているはずなのに……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)
## 第六章 End of the magic
弱い陽光が小さな窓から差し込み、薄暗い室内をオレンジ色に染めていた。もうすぐ日が沈む時刻だ。
室内にはレジのほか、ヨーロッパ風の角机と椅子があり、奥のステージには旧式のカラオケセットと音響が置かれていた。だが、どうやらしばらく放置されていたらしく、この様子ではもう営業はできそうにない。床にはウイスキーやビールの空き瓶がいくつも転がっている。
推測するに、ここはすでに潰れたバーだろう。
「ななな、なんだなんだ、おまえたち!?」
車からこの部屋へ引きずり込まれた春原は、両手をロープで縛られ、乱暴に床へ投げ出された。
ハワイアンシャツの男、というより派手な色のシャツを着た男たちばかりに、一言で言えば、今の春原はチンピラの群れに囲まれていた。
「こいつか? おまえを恥かかせることになったやつは」
紫のシャツを着てサングラスをかけた男が、春原を見下ろして尋ねた。
「そうだ、こいつだ!」
部屋の出口らしい扉の前で、妙な学生服を着た坊主頭の男がまっすぐ立ち、大声で答えた。
「お、おまえは!?」
昨日、春原と芽衣を繁華街から路地へ連れ込み、二十万の清掃代を要求した不良生徒だ。
「おまえ、昨日俺に恥をかかせやがって」
坊主は表情をこわばらせ、春原を威圧した。
「あの、ぶつかったソフトクリーム、洗えましたか?」
「あ、ばあちゃんに頼んで……って、……(コンテンツの読み込みに失敗しました!更新するか、ブラウザを変更してください)